特許 令和7年(行ケ)第10100号「ロボット、プログラム及び方法」(知的財産高等裁判所 令和8年7月1日)
【事件概要】
本願発明は、内部状態又は外部環境に応じて自律的に行動選択するロボットに関し、表示装置に表示した眼画像において、軸点を中心として瞳領域を振動させつつ、軸点を波状に移動させる制御を行うことを特徴とするものである。本願発明は、甲1発明に、周知事項(人間の眼球運動である「固視微動」)を考慮した上で甲3発明を適用することにより容易に想到し得るとして進歩性を否定した審決を、知財高裁が支持した事例である。
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【主な争点】
人間の眼球に関する周知事項を考慮して、これと構成の異なるロボットの眼に係る甲3発明を適用することにより、相違点1に係る本願発明の構成(眼画像において軸点を中心として瞳領域を振動させつつ、軸点を波状に移動させる構成)とすることが、当業者にとって容易に想到し得るか。
【結論】
引用文献1によると、甲1発明は、…生物に近づき親近感を高めた人工目が設けられたロボットに係る発明であって、より意思疎通のできる、かわいく、親しみ易いロボットのため、リアリティーの高い感情表現を果たす人工目及びそれを用いたロボットを提供することを課題とし、それを解決するために、ロボットに生物の目にできるだけ類似した人工目を持たせたり、その人工目に感情表現のパタン表示をさせたりするものである。
そして、…甲3発明は、人間のような高速な眼球運動(サッケードや固視微動)を表現するために、目をプロジェクタで投影することで高速な眼球運動を可能にして親しみやすさを兼ね備えた目を表現する、駆動機構を持たないロボットの目に係る発明であり、「人間のような高速な眼球運動」には周知事項である「固視微動」が含まれるものと認められる。
そうすると、甲1発明と甲3発明は、課題や技術思想が共通するから、甲1発明に甲3発明を適用する動機づけがあり、甲3発明を適用する際に周知事項である固視微動を考慮し、相違点1に係る本願発明の構成とすることは当業者が容易に想到し得るものということができる。
【コメント】
本件で原告は、ロボットを人間に近づけすぎるとかえって不気味さを覚えるという「不気味の谷」現象が本願優先日当時の技術常識であることを根拠に、人間の眼球特有の動きである「固視微動」をロボットの眼に適用することには容易に想到し得ない旨主張した。
これに対し裁判所は、①ロボットの眼に固視微動を適用すると不気味に感じられるといったことは本件の証拠上うかがわれないこと、②かえって本願明細書等によれば「固視微動に似た動きをさせることによりロボットの生物感が一層高まり、本願発明の主たる目的であるロボットがユーザを見つめる際の好適な制御方法が達成される」旨が理解できることなどを指摘し、原告の主張を排斥した。
原告が拠り所とした「不気味の谷」を裏付ける証拠がなく、かえって原告自身の明細書が固視微動の適用による有利な効果を記載していた点が、上記①②の判断を基礎づけたものといえる。